キッチン会議

LIXIL Link to Good Living

ものと人と空間をつなぎとめるもの
伊藤暁設計事務所取材を通して

伊藤暁さん

取材 | 2016.9.20

伊藤さんは、建築をものと人と空間の関係をデザインすることだといいます。多くの建築写真で見るように人のいない空間で建築空間を見ることが多いものですが、建築は生きているもの、人が動いているもの、そうした視点で人の動きが建築をつくるのです。そうした視点で捉えると、ある一定時間人がとどまるキッチンは、家の中で、ものと人と空間とをつなげる場所になるといいます。

ざっくりと置く
設計をする時、施主がどのように暮らし、どのように動くのかそれを考えることは重要です。しかし建築家としてその動きが空間の中でどのように見えていくのか、またその人がどのように空間を感じていくのか、そこに伊藤さんの興味はあるようです。特にキッチンは床、壁、天井で囲まれる建築空間の中で他の高さが出てくる数少ない造形物です。ダイニングやソファーなどはユーザーが後から置くものですが、キッチンだけは初めから置かれるもの、それゆえに配置や大きさに気を使い、空間との調和を図っていくのです。伊藤さんはキッチンを大胆に、そして空間の重要なところにあえて配置していきます。この大胆におくことを伊藤さんは「ざっくりと置く」と表現しています。
計算されて考え抜いた場所や大きさであるものの、存在感をもたせながら、またある意味施主の行動や気持ちに余白を与えるように、あえて「ざっくり」と置かれているように見せたいとおっしゃっています。

横浜の家
実際の事例を見せてもらいました。「横浜の家」ペニシュラキッチンです。斜面地に立つ家、2階のダイニング、キッチン、リビングには大きな窓があります。その窓に向かい合うように配置されたキッチンからは窓の外の景色がよく見えます。

YH2
この作品はまだ設計途中ですが長さ5m以上もあるキッチン。キッチンの天板がキッチン、ダイニング、パントリーという領域をまたいで空間を貫いています。

ここではキッチンのカウンターだけが浮いているように空間の中に強いメッセージとして作られています。通常の大きさよりずっと大きいキッチンは、キッチンというより大きな作業台のようにも見えます。そして家の中心に置かれているダイニングからは、食べることが暮らしの中心であることが伺えます。


壁付きキッチン、アイランドキッチン
伊藤さんに、「キッチン会議」でよく話題になるキッチンのシンクとコンロの配置、またアイランドや壁付きなどの配置についても伺いました。
使い手によるのだそうですが、人がよく訪れる家の方が、キッチンをクローズに、または区切られた別のところに置きたいという意見が多いそうです。それは、料理中は散らかるし、ばりばり料理するには、囲われた場所の方が気兼ねなくできるからだそうです。一方共働きなど、時間をかけて料理をするのが週末だけしかできない方はオープンキッチンを好むことが多いとか。また、アイランドやペニンシュラの場合、通常のカウンターの奥行き650ミリのまわりに人が留まれるように、プラス300ミリ、少し広めにして、下部には収納をつけるなどの工夫もするようです。カウンターの高さは通常の850ミリ前後、食事をする高さではないのですが、人がそこにあつまる、まとわりつくというのが狙いのようです。あえてダイニングの高さには合わせないといいます。そしてあくまでも視覚的には、「ざっくり」というのが伊藤さんのこだわりの視点のようです。

キッチンは台だ
さらにキッチンはカウンターの上に卓上コンロでもいいとも言います。大事なことは機器ではなく、そこに人が作業する「台」があること、人がそこに定着することだそうです。最近、庭で七輪を使い、肉を焼いている光景を見て、「キッチンの原型はそこにあるかなあ」と思ったそうです。人が火に向き合っている、火の回りに集まっている、そうした風景にキッチンの原風景があるといいます。
ものと人と空間をつなげるのがキッチン、そのキッチンは「作業する台」なのです。台に人が集まるということ。彼の建築の魅力は、彼の思惑がいつもキッチンの周りに人をとどめ、それが暮らしの風景へとなっていくからなのでしょう。キッチンを機能として捉えるのでなく空間の中の大事な要素として捉えていこうとする建築家らしいアプローチを伺った気がしました。

1976年 東京都生まれ
2002年 横浜国立大学大学院修了
2002年〜2006年 aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
2007年 伊藤暁建築設計事務所設立
2010年〜 首都大学東京非常勤講師
2011年〜 東洋大学非常勤講師
2016年ベネチアビエンナーレ国際建築展、日本館に徳島県神山町の宿泊施設とその取り組み「WEEK 神山」を紹介、12組の建築家とともに審査員特別賞を受賞。

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