キッチン会議

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ソムリエのように
クライアントに選択の余地を残すこと

インテリアデザイナー 小野意匠計画代表 小野由記子さん

取材 | 2016.11.8

今回はインテリアデザイナーの小野由記子さんとそのご自宅を取材しました。インテリアデザイナーという職種をみなさんはご存知でしょうか。
インテリアデザイナーはホテルや店舗など商業の空間において、お店の内装から照明、また什器備品などをデザインし、さらに家具や小物などのスタイリングも行います。大きなプロジェクトであれば建築家と一緒にタッグを組みながら進めます。日本では住宅におけるインテリアデザイナーの需要はそれほど多くはありませんが、例えば新築のマンションや家を新築する時に、デザインスタイルの設定、間取り、建具キッチンなどエレメントのデザイン、さらには家具や絵画などのセレクトまですべて任せるというケースもあります。また最近では、リノベーションのようなプロジェクトはインテリアデザイナーが活躍できる舞台にもなりつつあります。小野さんは幅広く活動をされていますが、住宅において多くのプロジェクトの経験を持つ数少ないインテリアデザイナーの一人です。最近では個別のプロジェクトだけでなく、企業のコーディネーター教育やデベロッパーの商品開発へのアドバイス、海外のリゾートマンションのプロジェクトなど、その活動は国際的かつ広範囲になっています。


選択の余地を残した提案をすること

インテリアデザイナーについて、小野さんはどのようにその仕事に向き合っているかを聞いてみると、「インテリアデザイナーの仕事とは、ソムリエのような仕事です」と。「ソムリエはお客様の好みを聞きながら、たくさんのワインの中から料理にあったものを2、3種類レコメンドします。たくさんの種類と本数の中から自分で選び出すのはむずかしいものですが、ソムリエがいることで、自分好みのワインに出会うことができるのです。そしてそのワインを自分で選び取ったという満足感も得ることができます」。インテリアデザイナーの仕事もそれとよく似ています。クライアントのことをよく知りながら、その上で幾つかの選択肢としての「レコメンド」をすることで、クライアントが自分で選び取って決めたデザインであること、そして自分の作品と思ってもらえる状況を整えることが大事だと言うのです。このコーナーで取材してきた今までの建築家との立ち位置の違いをうまく説明しているように思います。よい「レコメンド」をするには、多くの知識と経験、そしてなにより人柄が大事になってくるのだと、小野さんを拝見しながら感じます。

キッチンに隣接するパントリーの重要性

そんな小野さんの家のキッチンについても聞いてみました。「今はオープンキッチンが主流になりつつありますが、素敵なオープンキッチンを成立させるためにはパントリーが不可欠です。キッチンには不揃いのものや、かさばるものがたくさんあります。例えばちょっととっておきたい紙袋やストックのペットボトルなどを隠せる場所が必要なのです。また冷蔵庫のまわりには生活感があふれ出でてしまいますね。パントリーには、そうした不定形で雑多なものを隠す機能があります。パントリーがあることによってオープンキッチンの美しさが保てます」。そう説明しながら、ご自宅のキッチンのパントリーを見せてくれました。下の写真のように冷蔵庫も格納されており、普段使わない食器、ワイン、ペットボトルなども収納されていました。

キッチン

使い込んだ美しさ

この家は建築してからすでに13年になります。木も日に焼けて飴色に変わってきています。時間が経つほどに、使い込むほどに味わいが出てくる。そんなところに小野さんのデザインの根元があるようです。小野さんにとっての美しいキッチンとは「毎日使い続けて、綺麗に磨かれたもの。それは新品とは違う美しさを放っている」と言います。日々整理整頓し、掃除をし、磨きあげたもの、使い込まれたもの、そうした日常の行動の積み重ねの上にある美しさというのがキッチンの美しさだと言うのです。

ダイニング

スタイル・ウェルカム

雑談の中でこんなことも言われていました。日本人はもっと自宅に人を呼んだほうがいい、と。イタリアの主婦はインテリアセンスがいいとよく言われますが、そうしたハイセンスは人を呼び、競って自宅自慢をすることから始まったとか。よく『衣食住』と言いますが、暮らしのことを考えると、反対に『住食衣』という優先順位にしたほうがいいです。まずは住む場所にこだわりをもつこと。住まいも自己表現のひとつだから、そのことで暮らしはずっと楽に豊かになるんだと小野さんは言います。たまには家に人を呼んで、インテリアへの関心を高めていく。家具やファブリックだけでなく、照明や小物などのしつらえにも気を配るのです。そんな話をしながらテーブルの上に置いてある小石について尋ねると、海でご自身で拾ってきたものを箸置きにしていて、来られたお客様に自分で好きなものを選んで使ってもらうのだそうです。

石の箸置き

今回は小野さんのご自宅での取材だったこともあり、インテリアデザイナーとしての小野さんだけでなく、ご自身の暮らし方にも触れられたような取材となりました。ご自宅の設計の時、デザイナーとしての自分と、住み手としての自分との葛藤もなかったわけではないと言います。デザインと使いやすさ、その間に葛藤があるからこそ、デザイン一辺倒でない小野さんの仕事は多くのクライアントから高い支持を得られているに違いありません。
小野さんは自宅の地下1階を事務所にしています。仕事に追われる日々とのことですが、階段を上がってきた時には一気に気分が変わるように、寛いだ空間にこだわったようです。仕事のあとは、お嬢さんとふたりで食事を一緒に作ることも多いとか。今では料理のコンビネーションも抜群で、二人で料理をするとあっという間に次々料理ができていくそうです。居心地のいいキッチン、そしてダイニング。よく友人たちも訪れてここで長居をされるそうで、あまりにも居心地がよくて終電を乗り越すことも多いとか。
ソムリエのように「レコメンド」をするという仕事の流儀。普段の生活にもそうした配慮があるのでしょう。そのことが、空間だけでなく、ここを訪れる人にとっての居心地の良さを一層引き立てるに違いありません。

キッチンからリビングを見る

小野 由記子(おのゆきこ)

株式会社小野意匠計画 代表
http://onointerior.com/top/

武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリア専攻卒業
株式会社乃村工藝社を経て1985年小野意匠計画設立
文化学園大学 造形学部 建築 ・インテリア学科 非常勤講師

一般社団法人ケアリングデザイン 代表理事
http://www.caring-design.or.jp

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