キッチン会議

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使いやすい家を目指して
標準化して高度なものを安定的につくる

伊礼智設計室代表 伊礼智さん

取材 | 2016.12.13

伊礼さんは住宅作家として活躍されていますが、特に標準化ということを重視し、仕様、詳細図面などを体系的につくってそれをベースに設計をしています。今回の取材では「守谷の家」という実作を通して、キッチンのお話と、その背景にある「標準化」という視点についてもあわせて伺ってみました。

正面の窓の向こうは遊歩道。眺めのよい場所

玄関側のデッキからダイニングリビングを見る

キッチンはリビングとの関係性でできる
キッチンは常にリビングとダイニングとの関係性の中で考え、そのリビングとダイニングは敷地との関係性で決まる、と伊礼さんは言います。だから敷地の中で一番いい場所を一番過ごしたい場所に持っていきます。キッチンは多くの場合対面型です。この家ではL字型の配置で、リビングに面する部分が対面式で上記写真のように壁があいています。コンロの場所は通常壁側の方がおさまりがよく、特別な要望がなければ壁側に配置するそうです。料理をすることや片付けをすること、食事をすること、テレビを観たりくつろいだりする空間との関係をより楽しく、快適にすることを考え、自然とキッチンの配置は決まってくるそうです。
伊礼さんの設計するキッチンは既製品ではなく、その家にあわせてつくるそうです。一番の理由は、キッチンの面材をリビングダイニングの部屋の素材に合わせて空間の統一感を出すためだそうです。

キッチン収納、キッチンの面材は他のスペースと合わせてつくる

興味深いのは、キッチンを大工と建具屋でつくる点です。通常、キッチンは家具屋がつくりますが、その場合はあとから取り付けるため、ある程度の予備寸法を取ってつくってしまいます。伊礼さんは、オーダーメイドなのだから家の寸法にぴったり合うようにミリ単位でつくると言います。そのため、下地やカウンターは大工が、引き出しや扉は建具屋がつくります。その家のために、その空間のために、そして何よりそこに住む人のために合わせてつくるのです。カウンターの高さも、使う人の身長に合わせて慎重に決めます。中にはコンロとシンクの高さを変える人もいるそうです。

キッチンの寸法と背面収納との距離
キッチンの寸法は既製品の寸法に合わせて、基本150ミリ単位で決めていきます。長さは2550ミリ、2700ミリ、2850ミリ、3000ミリというように。奥行きは650ミリ、既製品の寸法と同じです。機器が組み込まれる部分も一般的な寸法に合わせているので、取り換えやメンテナンスにも対応しやすくしています。引き出しの中のパーツなどは既製品が使えるようになっているそうです。またキッチンと背面収納および作業台までの距離は750ミリから810ミリ。ここを広くとりすぎると動きが大きくなるので使いにくいと言います。

冷蔵庫は隠さない。使いやすい場所に
建築家の中には、冷蔵庫を見えない場所に置くよう図面を書く人も少なくないですが、伊礼さんはあえて隠さないと言います。「見える」ことを前提に、どう美しく見せるかを考えます。下の写真のように、周りの家具と一体に見えるように、下り壁(目隠し扉)をつけています。こうした小さな配慮が、あとから入る冷蔵庫が異質なものに見えないようにしているのです。あくまでも冷蔵庫は使いやすい場所に、移動距離の少ない場所が一番よいと言います。

リビングダイニングからキッチンを見る。冷蔵庫の上の小さな下り壁(目隠し扉)

誰にとっても使いやすいキッチン
オーダーメイドにこだわる一方で、そのアウトプットは奇抜なものや個性的なものではありません。とてもオーソドックスで使いやすいキッチンを考えると言います。打ち合わせでしっかりとヒアリングはするものの、それを受けて特殊なものをつくるのでなく、経験の上に成り立った標準的なものを目指していきます。それは、キッチンは誰にとっても使いやすいものである必要があるからと言います。

家そのものを標準化する
伊礼さんは「パーツの標準化」を強く謳い、住宅業界では工務店の人たちにも広く知られています。標準化とは、仕様・ディテール・素材などを標準図面として整備することです。その図面には、常に改良や改善が積み上がっていきます。合理化して単純化するのが目的でなく、難しい仕事を誰もが間違いなくできるようにするためです。経験に基づいた確かなものや、職人たちと積み上げてきた知見を重ねて、より良いもの、より品質の高いものを目指していくのです。そこに伊礼さんの哲学があります。
実際の仕事の場面では、標準仕様書や図面があるからといってその部分を書かないのでなく、一軒ごとに標準図面をベースにすべての納まりを書き直します。合理化して手間を省くのでなく、それらをベースに毎回図面を書き直していくのです。例えば、通常は現場側で書く施工図も、伊礼さんの事務所では設計側で書きます。そこにこそ建築家の役割があると言います。難しい納まりを職人の腕に頼るだけでなく、経験や知恵を建築家が見える形にすることで、さらなる高みを目指しているのだそうです。

事務所のまかない
伊礼さんが事務所にいる時は所員みんなの昼食をご自身がつくるそうです。自分が料理をすることで、キッチンの使い方や「暮らす」ということを実践するのです。その経験が「住宅作家」としての建築家にとって大事だと言います。家は完成するまで半年かかりますが、1時間ほどで完成形が見える料理は創造的で楽しく、よい息抜きにもなるのだそう。事務所のキッチンも、お客さんにつくるキッチンと同じように標準化されたものでした。
今回の取材は、標準化ということについて「基本があるから改善がうまく進む」ということや「誰もができるように知恵を目に見える形にすること」など、一見あたりまえのことを、徹底的に突き詰め、その水準を上げ続けるということ。それが伊礼さんの作風になっているのだと実感できた取材でした。

事務所のキッチン。引き出しは横から使う。まず必要なものを一旦取り出しておいて、それから料理を始める

伊礼 智(いれい さとし)
1959年 沖縄県生まれ
1982年 琉球大学理工学部建設工学科計画研究室卒業
1985年 東京芸術大学美術学部建築科大学院修了
1996年 伊礼智設計室開設
2005年〜 日本大学生産工学部建築工学科
  「居住デザインコース」非常勤講師
2016年〜 東京芸術大学美術学部建築科非常勤講師

□ 著書
2009年 伊礼智の住宅設計作法
(編集/新建新聞社 発行/アース工房) 
2012年 伊礼智の住宅設計―標準化から生まれる豊かな住まい
(発行/エクスナレッジ)
2014年 伊礼智の「小さな家」70のレシピ
(発行/エクスナレッジ)   
2016年 住宅建築家・3人3様の流儀 中村好文、竹原義二、伊礼智
(発行/エクスナレッジ)

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